僕にとって変わらない思いがあります。それは、音楽とは創造でなければならないということです。すでにあるものを真似たり、かつて誰かが試みたことを踏襲するのは音楽ではない。世界で僕にだけしかできないものを創り出すこと、それが音楽である、それに向かうのが音楽家の努めだという思いです。このことは僕の仕事の全てに強い影響力を持っていました。作曲であれ、編曲であれ、です。 日本の音楽を創りたい、というのが僕が今でも目指している目標です。西洋の音楽の真似ではない、日本人にしかできない、したがって日本人による音楽です。日本の音楽とは何か、という問いはなかなか難問です。そういう問題を「このグローバルな時代にあって無意味だ」という批判もあります。けれども、日本人が世界に誇る音楽を持つことは、決して悪いこととは思えません。 2008年の現在、音楽産業は大きな岐路を迎えていると思わざるを得ません。プロツールスに代表されるデジタル音源制作ツールの発達。それでもCDの売り上げは上がらない。片やiPodに代表されるコンピュータを経由しての楽曲利用の増加、携帯電話の着信用音源としての音楽配信の増大。「アルバム」という一つの音楽の単位が失われつつあります。この事態はより大げさに言えば、既存の一つの価値を、僕たちの時代に放棄することを意味しています。なおかつ、このことが大いなる失策ではないとは、誰にもわからないことなのです。 音楽は僕たちの世代が作ったものではありません。僕たちもまた、その前の世代から受け継いだのです。ですから、僕たちの責務は、これを次の世代に受け渡すことだと思います。 バベルの塔は、あまりにも繁栄を目指した人類が神からの罰を受けるという寓話であります。バベルの塔が破壊された事態を、僕たちの時代にもたらしてはならないのです。 (かつて)「良い音楽を創る」ことにミュージシャンもレコード会社も同じ夢を抱いていた時代があった、ぜひともそのポジティブな時代精神を汲み取っていただけたらと思います。そしてより若い世代にも、この困難な時代を生き抜くための何らかの手がかりになれば、これほどの幸せはありません。 |
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