深町純さんと北のドラマ
1970年代、私は深町純さんとたくさん仕事をさせていただいた。
そのころ私の勤める北海道放送 (HBC) は、地方局ではめずらしくテレビドラマを制作し全国に放送していた。日曜夜9時の東芝日曜劇場が主な枠で一時間の読み切りドラマが中心だった。
駆け出しデイレクターだった私は、やはり日曜劇場を始めて書くという後の大物作家・市川森一さんの脚本で、小樽の小さな図書館を舞台にドラマを撮った。枯葉の舞う林の中の図書館にふらりとやってきた謎の女ともてない司書の物語。小樽出身の作家・伊藤整の詩を引用し、題名も彼の詩集からとり「林で書いた詩」とした。音楽をだれにお願いしようか考えた私は、何かで聞いた深町さんの音楽が耳から離れずに思い切ってお願いをした。
映像編集が上がって深町さんに見ていただいた。彼は見終わり一言つぶやいた。「この作品のテーマは秋だね・・・・」。
作曲が出来上がり録音。スタジオに昼からこもり、深町さんはシンセサイザーに向かって弾き続けた。一人で何度も弾き幾重にも音を重ねる、当時としては先駆的な技術に驚いた。しかし時間は猛烈にかかった。朝になっても終わらない。スタジオ料が出せないとマネージャーの前さんはぼやいたが深町さんは聞く耳を持たなかった。
クライマックスの場面の音楽で問題が起きた。深町さんは自分が作詞した唄入りの曲を入れたいという。その場面には劇中の主人公の長い大切なセリフがびっしりと書き込まれている。そこに唄入りの曲が被るとセリフが聞こえなくなる、それはタブーだった。私は脚本の市川森一さんに相談した。市川さんは「いいよ、秋が感じられればいいんだよ・・・」と言ってくれた。
小樽の港を見下ろす丘の上にたたずむ、もう若くはない謎の女と、その女に魅せられてついてきた朴訥な図書館の司書。女は自分の心の秋を司書に語る。その場面に深町さんの作詞による唄入りの曲が朗々と流れるのだ。
あたりはすっかり秋、高い木立の上を枯葉が鳥の群れのように舞っている。
♪ 何もない 丘は悲しい
きっといつか めぐり合う
秋は美しいけれど 悲しい時
思い出は あの空に飛び立つ
赤い夕日に 別れを告げて
あーー呼んでいる あーー呼んでいる
(詩・曲・唄 深町 純)
このあと私は、立て続けに深町さんにたくさんのドラマの音楽をお願いした。
「旅ゆけば」(75年、主演鈴木ヒロミツ、堀内正巳)、「バースデイカード」(77年、水谷豊、池上季実子)、「春のささやき」(80年、根津甚八、伊藤蘭)などなど。そのいずれもが深町さんの音楽が前面に出た話題作となった。
どの作品もたった一回の放送だったがとても大きな反響があり、のちに大家となる多くの作家がこれらの作品に影響を受けたといってくれた。
今、札幌ではこれらの作品を再上映したいという動きが始まっている。
実現すれば深町さんも喜んでくれるだろう。
長沼 修
(株)札幌ドーム社長、前北海道放送社長、プロデューサー
2016年9月23日