深町さんが最初に飼った猫はシャム猫で、その名も作曲家ベラ・バルトークからもらった「ベラ」。「テノールの歌声がCDから聞こえてくると、声をひっくり返して一緒に歌い、人間用のトイレで用を足し、帰宅すると出迎えてくれた猫でした」
晩年肝臓を患い、16歳で天国へ。「亡くなる寸前、抱き上げた僕の手を血が出るほど強くかみ、死んでいった。一度もかんだことなどなかったのに…」
〜出会ってしまった〜
その手の痛みもまだ消えやらぬうちに、近所で出会ってしまった子猫が、現在の「うり」ちゃんだ。「カラスウリをもらった日に、恵比寿の商店街の植え込みで見つけたんです。ベラが死んだばかりで積極的に飼おうという気はなかったんですが、目がぐしゃぐしゃなのでとにかく病院に連れていこうと。10日もするとすっかり回復し、いまや自慢の美猫です」
少し遅れて「かい」君もきた。
「前のベラは一匹で寂しい思いをさせたので伊豆の友人からもらいました。「かい」は、海、貝から。ところが仕事仲間に、『売って買わせるための音楽はいやだといつも言っているくせに、猫の名は "売り” "買い” か?と言われ、がくぜん」
その「うり・かい」は先代のベラとはまた違ったタイプ、というか両極端。オスのかい君はだれにでも長いしっぽを「?」の形にくねらせて寄ってきて、おなかを見せ、ゴロン。犬顔負けの愛想の良さ。一方、メスのうりちゃんは、キーボードの下に身をひそめたまま。
「今まで3匹の猫しか知りませんけど、3匹3様。唯一共通しているのは、キーボードにはまったく反応しないこと。いろんな音を出してみたけど、ダメなんです。だが、うりちゃんの方は五線譜が読めるらしい。
〜楽譜をかじるヤツ〜
「朝、猫たちに缶詰をやるんですが、僕が寝坊すると、うりちゃんはテーブルの上の譜面をバリバリかじるんです。しかも必ず今やっている大事な仕事の譜面を。どうしてわかるのかなあって怒るよりも笑っちゃいますね。ピアノは聴いてくれないけど、これがうりちゃんのコミュニケーション法かも」
室内には猫たちの写真がたくさん貼ってあり、その愛され度が伝わってくる。
いろいろなものを育てることが好きだという深町さん、バルコニーには卵からかえしたという金魚やメダカもいるし、木や草花もところ狭しと並んでいる。コンサートでもらったバラも挿し木して育てるそうだ。
「花の実を食べに鳥が来て、種をどこかに運んでいく。何かを育てると、自然がみんなつながっていることがわかります。世界が全部アメリカになってはつまらないのと同じで、いろんな生き物がいることが素晴らしい」
こんな優しい飼い主がキーボードの上に置いてくれた、猫用ホット座布団にぬくぬく座り、毎晩飼い主の仕事ぶりを監督している「うり・かい」コンビ。
東京新聞 (2004年1月28日付け 文・宮 晶子)より